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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)8580号 判決

大阪市生野区新今里二丁目八番一四号

原告

株式会社豆新本店

右代表者代表取締役

竹村秀毅

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

松本司

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

岩坪哲

田辺保雄

右輔佐人弁理士

小谷悦司

名古屋市西区花の木一丁目六番一〇号

被告

春日井製菓株式会社

右代表者代表取締役

春日井康仁

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

増岡研介

對﨑俊一

荻原静夫

片山哲章

右輔佐人弁理士

早川政名

長南満輝男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙第一説明書記載の豆菓子等の窒素封入包装方法を使用してはならない。

二  被告は、前項の窒素封入機及び豆菓子等を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金一億三五〇〇万円及びこれに対する平成六年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  仮執行宣言

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告の権利

(一) 原告は左記の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有している(争いがない。)。

登録番号 特許第一三一二三四八号

発明の名称 豆菓子等の窒素封入包装方法

出願日 昭和五六年一〇月一三日(昭五六-一六三七八四号)

出願公告日 昭和六〇年八月一三日(昭六〇-三五〇九四号)

登録日 昭和六一年四月一一日

特許請求の範囲

「 両端が開口するシュートパイプの一方から包装フイルムを、上記シュートパイプを囲繞するように巻きつけ、縦シール部において縦シールしつゝシュートパイプの他方に送り出し、シュートパイプの他方に設けた横シール部において一定間隔で横シールすることにより袋状部を形成させるようにし、かつ上記シュートパイプの一方から窒素ガスを連続して吹き込むことにより、吹き込み側開口部から窒素ガスを常にオーバーフローさせると共にシュートパイプの他方からシュートパイプの外周とフイルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させつゝ、豆菓子等の製品を上記シュートパイプの一方から上記横シールに対応して間欠的に供給して窒素ガスと共に製品を袋状部中に充填させることを特徴とする豆菓子等の窒素封入包装方法。」(別添「本件特許公報」参照)

(二) 本件発明の特許請求の範囲の記載は、次の構成要件に分説するのが相当と認められる(甲第二号証、弁論の全趣旨)。

A 両端が開口するシュートパイプの一方から包装フイルムを、上記シュートパイプを囲繞するように巻きつけ、

B 縦シール部において縦シールしつつシュートパイプの他方に送り出し、

C シュートパイプの他方に設けた横シール部において一定間隔で横シールすることにより袋状部を形成させるようにし、

D かつ上記シュートパイプの一方から窒素ガスを連続して吹き込むことにより、吹き込み側開口部から窒素ガスを常にオーバーフローさせるとともに、

E シュートパイプの他方からシュートパイプの外周とフイルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させつつ、

F 豆菓子等の製品を上記シュートパイプの一方から右の横シールに対応して間欠的に供給して窒素ガスと共に製品を袋状部中に充填させることを特徴とする豆菓子等の窒素封入包装方法。

(三) 本件発明の作用効果について、本件発明の願書に添付された明細書には、次のとおり記載されている。

「 この発明は、シュートパイプの一端開口部から常にオーバーフローする程度に窒素ガスを供給するようにしたものであり、極めて簡単な構成で高置換率を得ることができ、製作費および維持費が安価であり、かつ、長時間の連続運転が可能であるという利点を有するものである。」(本件特許公報5欄7行ないし6欄2行。なお、5欄11行に「高価」とあるのは、「安価」の誤記と認められる。)

2  被告の行為

被告は、その製造した豆菓子等を窒素封入包装方法により包装して、「うすピー」「小魚&ピーナッツ」等の商品名で販売している(争いがない。)。

被告が実施している窒素封入包装方法(以下「被告方法」という。)がいかなるものであるかについて、当事者間に争いがあり、原告は、別紙第一説明書一、二記載の装置A又は装置Bを使用する同三記載の方法であると主張し、被告は、別紙第二説明書一、二記載の装置(一)ないし(四)を使用する同三記載の方法であると主張する。

二  原告の請求

原告は、被告方法が原告主張の別紙第一説明書記載のとおりの方法であることを前提に、被告方法は本件発明の技術的範囲に属するから、被告が被告方法により豆菓子等を包装する行為は本件特許権を侵害するものであり、また、別紙第一説明書記載の装置A又は装置Bを使用する行為は本件特許権のいわゆる間接侵害に当たると主張して、特許法一〇〇条に基づき被告方法の使用の停止並びに装置A、装置B及び豆菓子等の廃棄を求めるとともに、被告は平成三年六月から平成六年五月末日までの間に被告方法を使用して豆菓子等を包装し、これを販売して合計四五億円の売上げを得たものであり、その実施料相当額は右売上額の三%に相当する一億三五〇〇万円であると主張して、民法七〇九条、特許法一〇二条二項に基づき、損害賠償として同額及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年九月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

三  争点

本件訴訟における争点は、被告方法が原告主張の別紙第一説明書記載のとおりの方法であるか否か、である。

すなわち、被告方法の特定として原告の主張する別紙第一説明書一、二記載の装置A又は装置Bを使用する同三記載の方法は、本件発明の特許請求の範囲の記載と実質的に同一でありその構成要件をすべて充足するものであることが明らかであり、もし被告方法が別紙第一説明書記載のとおりの方法であるとすれば、直ちに本件発明の技術的範囲に属することになる(但し、構成要件Bについては、後記のとおり若干問題が残っている。)。これに対し、被告方法が本件発明の技術的範囲に属することを争う被告は、当然のことながら被告方法が原告主張の別紙第一説明書記載のとおりの方法であることを図面を含め否認し、被告方法の特定について、本件発明の構成要件D「かつ上記シュートパイプの一方から窒素ガスを連続して吹き込むことにより、吹き込み側開口部から窒素ガスを常にオーバーフローさせるとともに、」、及びE「シュートパイプの他方からシュートパイプの外周とフイルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させつつ、」を充足しないことが明らかな別紙第二説明書一、二記載の装置(一)ないし(四)を使用する同三記載の方法であると主張するので、争点は、被告方法が原告主張の別紙第一説明書記載のとおりの方法であるか否か、ということになる。

被告は、その外、被告方法は構成要件Bも充足しないと主張する。

第三  争点に関する当事者の主張

【原告の主張】

一1  被告が豆菓子等の包装に当たり使用している被告方法は、別紙第一説明書一、二記載の装置A又は装置Bを使用する同三記載の方法である。

2  被告方法は、これを本件発明の構成要件に対応させて分説すると、次のとおりである。

a 両端が開口するシュートパイプ4'の一方から包装フイルム10'を右のシュートパイプ4'を囲繞するように筒状に巻きつけ、

b シュートパイプ4'の他方に送り出し、縦シール部5'において縦シールされ、

c シュートパイプ4'の他方に設けた横シール部6'において一定間隔で横シールすることにより袋状部60'を形成させるようにし、

d かつ、右のシュートパイプ4'の一方から窒素ガス充填パイプ8'により窒素ガスを連続して吹き込むことにより、吹き込み側開口部4a'から窒素ガスを常にオーバーフローさせるとともに、

e シュートパイプ4'の他方からシュートパイプ4'の外周とフイルム10'との間隙43'を通して窒素ガスを排出させつつ、

f 豆菓子等の製品20'を右のシュートパイプ4'の一方から右の横シール6'に対応して間欠的に供給して窒素ガスと共に製品を袋状部60'中に充填させるようにした

豆菓子等の窒素封入包装方法。

被告方法の右の構成a、b、c、d、e、fは、順にそれぞれ本件発明の構成要件A、B、C、D、E、Fを充足するものであり、右のような構成をとることにより、被告方法は本件発明の作用効果(前記第二の一1(三))と同じ作用効果を奏する。したがって、被告方法は本件発明の技術的範囲に属する。

二  被告方法が別紙第一説明書一、二記載の装置A又は装置Bを使用する同三記載の方法であることは、以下の事実から明らかである。

すなわち、被告は、被告が豆菓子等の包装に当たり使用している装置は、株式会社東京自働機械製作所(以下「東京自働機械」という。)が製造したガス充填装置付たて型製袋充填機であることを甲第六号証(被告の平成五年九月二七日付回答書)において認めている。一方、東京自働機械の商標は、正方形のブルー地に「tam」のローマ字を白抜きで表示したものであり、特にガス充填装置付等の特注の製袋充填機には「TWX1N」なる商標を使用しているところ(甲第五号証)、訴外ヨコイピーナッツ株式会社(以下「ヨコイピーナッツ」という。)が使用しているガス充填装置付たて型製袋充填機(検甲第一号証の1~12〔平成七年七月四日撮影の写真〕)は、「tam」の商標及び「TWX1N」の商標が付されており、そして、原告代表者は、ヨコイピーナッツの専務から、ガス噴射口はシュートパイプの上方左右二か所に開口しているだけで、内部にパイプ等は垂下していないこと(すなわち、装置Bに該当する。)、窒素ガスは連続して吹き込まれていることを確認した。したがって、被告は、ヨコイピーナッツと同様、東京自働機械製のガス充填装置付たて型製袋充填機「TWX1N」を使用して本件発明の方法を実施していることが明らかである。

なお、東京自動機械が本件発明の特許について無効審判を請求したことは、同社の装置が原告主張の被告方法を使用するものであるからに外ならない(右無効審判請求については、平成八年六月二七日付で審判請求は成り立たないとする審決があった。甲第九号証)。

三  被告が被告方法は別紙第二説明書一、二記載の装置(一)ないし(四)を使用する同三記載の方法であるとして主張するところは、「窒素ガスを連続して吹き込む」ものではなく、「シュートパイプの他方からシュートパイプの外周とフイルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させ」るものではないことの根拠となるものではない。

1(一) 被告方法において、わざわざ窒素ガスを間欠的に吹き込むようにする技術的意味が不明である。窒素ガスを間欠的に吹き込めば、窒素ガスを止めた際、シュートパイプ内に空気が流入し、次に窒素ガスを吹き込んでもシュートパイプ内の空気が窒素ガスと混ざって袋内に封入されることになり、窒素ガスの充填率を高めることは不可能である。

すなわち、被告の商品「うすピー」(甲第八、第一〇号証)及び「小魚&ピーナッツ」(甲第一一号証)の分析試験結果によれば、いずれも窒素ガス充填率が九九%以上である。被告が主張するところの窒素ガスを間欠的に吹き込む包装方法では、〈1〉窒素ガスの吹き込み時間が〇・一秒間ないし一秒間という極めて短時間であるから、吹き込まれる窒素ガスの量は僅かであり、しかも吹き込み停止中の袋内は空気が多量に混入した状態にあり、〈2〉フイルム繰出し時(その際、製品の投入、窒素ガスの充填も同時に行われている。)には、空気をシュートパイプの外周とフイルムとの間隙から袋内に引き込むとともに、シュートパイプの上方から製品と共に袋内に引き込むことになるので、九九%という高い窒素ガス充填率を実現することは不可能である。

(二) 被告方法が窒素ガスを間欠的に吹き込む方法であるならば、装置に窒素ガスを間欠的に吹き込む装置が付設されているはずであるところ、検乙第二号証(ビデオテープ)には、そのようなものは何ら示されていない。

フローメーターのフロートが間欠的に上下しているのは、そもそもどの部分の何を測定したものであるのか不明である。検乙第二号証によれば、袋を引き下げた時にフローメーターのフロートが下がっているところ、これは、袋を引き下げた瞬間にはガスを吹き込む容積が瞬間的に大きくなるのでシュートパイプ及び袋内のガスの流圧が下がるためであり、横シールを施せばフロートが上がるのは容積が減じて流圧が上がるためであると考えられ、ノズルから吹き込まれる流量は常に一定である。

検乙第二号証において袋状になったフィルムが膨らんだりしぼんだりしているのは、単に、フィルムに横シールを施した後に引き下げる際、袋にテンションがかかって引き伸ばされることによりしぼみ、引下げ動作が終わったことにより膨らんでいるにすぎず(窒素ガス充填をしない標準機種においても起こる現象である。)、ガスを吹き込む際に膨らみ、ガスを止めた時にしぼんでいるものでないことは明らかである。

2(一) シュートパイプの上方から吹き込まれた窒素ガスは袋内で反転して逆流し、その大部分がシュートパイプの上方からオーバーフローするところ、その際、シュートパイプの外周とフィルムとの間に僅かな間隙が存在する以上、この僅かな間隙内を、ごく一部の窒素ガスが上昇することになるのは当然であり、この結果、間隙内に窒素ガスが満たされていることによって、間隙から空気が侵入するのを防ぐ効果が生じる。ただ、この間隙は極めて僅かであるため、間隙を上昇する窒素ガスの量も僅かであるから、検乙第二号証に示されているように被告の装置のシュートパイプとフィルムとの間隙付近に貼付した薄いティッシュペーパー片を動かすには至らないのである。

(二) 検乙第二号証によれば、シュートパイプの外周の縦シールのヒート板が押しつけられる面が赤茶けた状態となっているところ、このように赤茶けた状態となるのは、袋に詰められるおかきやピーナッツ等の有機物の微粉末がガス流と共にシュートパイプの外周とフイルムとの間隙内を上昇し、縦シールのヒート板によつて押しっけられることにより焼き付くためであり、まさに右間隙内を窒素ガスが上昇していることの証左である。

【被告の主張】

一1  被告が豆菓子等の包装に当たり使用している被告方法は、別紙第二説明書一、二記載の装置(一)ないし(四)を使用する同三記載の方法であって、原告主張の別紙第一説明書一、二記載の装置A又は装置Bを使用する同三記載の方法ではない。

2  したがって、被告方法が本件発明の構成要件A、C、Fを充足することは認めるが、被告方法は、ガス噴射口8aないし8dから一定時間窒素ガスを吹き込み、吹き込みの完了後に横シール動作をする、すなわち窒素ガスの吹き込みは連続ではなく間欠的であり、したがって、当然のことながら吹き込み側開口部から窒素ガスを常にオーバーフローさせるというものでもないから、本件発明の構成要件D「かつ上記シュートパイプの一方から窒素ガスを連続して吹き込むことにより、吹き込み側開口部から窒素ガスを常にオーバーフローさせるとともに、」を充足せず、シュートパイプの外周とフィルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させるものではないから、構成要件E「シュートパイプの他方からシュートパイプの外周とフイルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させつつ、」を充足しない。また、被告方法は、包装フィルムの縦シールとその送り出しを同時並行的に行うものではないから、構成要件B「縦シール部において縦シールしつつシュートパイプの他方に送り出し、」を充足しない。

二1  被告方法が別紙第二説明書一、二記載の装置(一)ないし(四)を使用する同三記載の方法であることは、検乙第一号証の1~10(平成七年八月九日撮影の被告使用の装置の写真)及び検乙第二号証(同じくビデオテープ)により明らかである。

すなわち、被告方法が「窒素ガスを連続して吹き込む」ものではないことは、検乙第二号証により、装置(一)ないし(四)の背面部に取り付けられている窒素ガス流量確認のためのフローメーターのフロートが間欠的に上下していること(窒素ガスが流れていないとき、フロートは自重により下に落ちている。)、袋状になったフィルムが膨らんだりしぼんだりしていることが認められること、また、乙第一、第三ないし第五号証の各1~3、第二、第六ないし第八号証の各1~4(マイコンデータ表、タイミング表等)に示されている一サイクル時間(製品一袋が包装される時間で、機械回転数により定まるもの)ごとのガス充填開始時刻と動作時間(例えば、一・二秒の一サイクル時間において、基準時の〇・二秒後にガス充填が開始され、〇・三秒間継続する。)から明らかである。

また、被告方法が「シュートパイプの他方からシュートパイプの外周とフィルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させ」るものではないことは、検乙第二号証に示されているように、シュートパイプとフイルムとの間隙付近に薄いティッシュペーパー片の一端を貼付して装置を作動させれば、もし窒素ガスの排出があればこれが風圧で開くはずであるのに、右のようにして装置を作動させても、ティッシュペーパー片は開かないことから明らかである。

被告方法が包装フィルムの縦シールとその送り出しを同時並行的に行うものでないことは、前記各タイミング表により一目瞭然である(例えば乙第一号証の3には、「ブイード」の終了後に「タテシール」が開始し、「タテシール」の終了後に次の「フイード」が行われることが示されている。)。

2(一)  原告は、被告方法においてわざわざ窒素ガスを間欠的に吹き込むようにする技術的意味が不明であると主張するが、窒素ガスの原価は製品の売値の約二%に達するから、窒素ガスの節約という観点から無意味なことではない。

(二)  原告は、被告方法が窒素ガスを間欠的に吹き込む方法であれば付設されているはずの窒素ガスを間欠的に吹き込む装置が検乙第二号証に示されていない旨主張するが、検乙第一号証の10に示されているソレノイドバルブ(電磁弁。動作時間中、制御装置から電流が流れ、これにより弁が開いて窒素ガスが流れる。)がそれであることは明らかである。

(三)  また、原告は、被告の商品における窒素ガス充填率の高さ、換言すれば残存酸素濃度の低さを問題にするが、原告の主張は本件発明の方法によらない限り他のどのような方法をもってしても残存酸素濃度を減少させることはできないという前提に立たなければ成り立ちえないものであり、そのような前提が誤りであることは明らかである。しかも、原告提出の試験結果(甲第八、第一〇、第一一号証)は、どのようにして行った試験であるか、どのようにして抽出した商品を何例試験したのかなどという点が全く不明であり、証拠価値はない。

被告の商品の包装中の残存酸素濃度に関する過去三年間の検査記録(乙第一一号証)によれば、高いものも低いものもあり、検査時期によっても異なるのであり(一般に、酸素濃度の極めて低い状態で包装しても、その後、内容物がその少ない酸素となお反応して酸化することが避けられないので、残存酸素濃度は更に低下する。特にピーナッツは、含有酵素のためこの傾向が顕著である。)、この中から残存酸素濃度の特に低い一例を取り出すことは可能であるが、意味のないことである。

(四)  更に、原告は、検乙第二号証においてシュートパイプの外周が赤茶けた状態となっていることについて、おかきやピーナッツ等の有機物の微粉末がガス流と共にシュートパイプの外周とフィルムとの間隙内を上昇し縦シールのヒート板によつて押しっけられることにより焼き付くためであると主張するが、被告の商品の包装用フィルムは大きなロールにより装置に供給されるところ、このフィルムには食品用フィルムではよく行われているように剥離を容易にするためにコーンスターチが付けられており、これが加熱されて赤茶けた状態となっているにすぎない。

三  原告は、被告が使用している装置の製造業者が、ヨコイピーナッツの使用している装置の製造業者と同じ東京自働機械であるというだけの理由で、被告が使用している装置はヨコイピーナッツが使用している装置と同じである旨主張するが、かかる主張は、一般論として論理に飛躍があるだけでなく、被告の装置の実際の製造方法からして成り立たないことが明らかである。

すなわち、包装機には型番毎に標準仕様があるが、そのままでは使用することはできず、これにサイズ交換部品を取り付けてはじめてガス充填をしない場合の包装機として使用できるところ、ユーザー毎に包装される内容物や包装用フィルムの素材、形状等が異なるので、ユーザー毎に改造されるのが常であるし、ガス充填をする場合には、オプション装置としてガス充填装置が装着され、更にユーザー毎に改造がなされる。したがって、装置の型番が同一であることは単に標準仕様が同一であることを示すにすぎないから、仮に被告の使用する包装機の型番がヨコイピーナッツの使用する包装機の型番と同一であったとしても、直ちに同一の装置であるということはできないのである。まして、装置を使用して包装する方法が同一でないことはいうまでもない。

なお、ヨコイピーナッツが使用している包装機(二台)についても、そのうち一台はガス充填装置が装着されていないし、他の一台も、窒素ガスを連続して吹き込んではおらず、窒素ガスを常にオーバーフローさせたり、シュートパイプの外周とフィルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させたりしていない。

第四  当裁判所の判断

一  原告は、被告方法は別紙第一説明書一、二記載の装置A又は装置Bを使用する同三記載の方法、すなわち「窒素ガスを連続して吹き込むことにより、吹き込み側開口部から窒素ガスを常にオーバーフローさせる」ものであり、「シュートパイプの他方からシュートパイプの外周とフィルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させ」るものである旨主張するが、その根拠として原告の主張立証するところは、以下のとおり採用することができず、結局、本件全証拠によるも被告方法が右原告主張の方法であると認めることはできない。

1  まず、原告は、被告の使用している装置は東京自働機械が製造したガス充填装置付たて型製袋充填機であるところ、ヨコイピーナッツが使用しているガス充填装置付たて型製袋充填機も東京自働機械が製造した「TWX1N」であり、原告代表者はヨコイピーナッツの専務から、ガス噴射口はシユートパイプの上方左右二か所に開口しているだけで、内部にパイプ等は垂下していないこと(すなわち、装置Bに該当する。)、窒素ガスは連続して吹き込まれていることを確認したから、被告は、ヨコイピーナッツと同様、東京自働機械製のガス充填装置付たて型製袋充填機「TWX1N」を使用して本件発明の方法を実施していることが明らかである旨主張する。

検乙第一号証の1~10(平成七年八月九日撮影の被告使用の装置の写真)及び弁論の全趣旨によれば、被告が豆菓子等の包装に使用している装置は、東京自働機械製の「TWX1N」であり、検甲第一号証の1~12(平成七年七月四日撮影のヨコイピーナッツ使用の装置の写真)によれば、ヨコイピーナッツが使用している装置も同じ東京自動機械製の「TWX1N」であることが認められ、甲第五号証(東京自働機械作成のカタログ)には、東京自働機械が製造、販売している製袋充填機は「TWR300(標準仕様機)」、「TWR500(粉末コーヒー仕様機)」、「TWR600(粉末仕様機)」、「TWR770(スナっク仕様機)」及び「TWR800(大型機)」の合計五機種あり、いずれもその機械仕様の「装置」欄に「N2ガス充填装置」の記載及び欄外に「TWX1Nの交換部品も使用可能です。」との記載があることから、東京自働機械製の製袋充填機では窒素ガスの充填が可能であることが認められる。

しかしながら、このことから直ちに、被告が窒素ガスを連続して吹き込む方法を採用しているということはできない(そもそも、ヨコイピーナッツが窒素ガスを連続して吹き込む方法を採用しているとの事実自体、これを認めるに足りる証拠はない。)。また、証拠(甲第一二号証、検甲第二号証の1~8、第三号証、原告代表者)によれば、同様に東京自働機械製の「TWR300」を使用している吉田ピーナツ株式会社では、平成九年一月九日に原告代表者らが同社を訪れた際、その商品「柿の種ピーナッツ」を包装するのに右装置を用いて窒素ガスを連続して吹き込む方法を採用しており、そのフローメーターのフロートは常に上がりっぱなしであったこと、その際包装された四袋の残存酸素濃度は一・〇八%、一・一七%、一・一二%、一・〇九%であったことが認められるが、前同様、このことから直ちに被告が窒素ガスを連続して吹き込む方法を採用しているということはできない。東京自働機械が本件発明の特許について無効審判を請求したこと(甲第九号証)についても、同断である。

2  原告は、被告の「うすピー」(甲第八、第一〇号証)及び「小魚&ピーナッツ」(甲第一一号証)の分析試験結果によればいずれも窒素ガス充填率が九九%以上であるところ、被告が主張するところの窒素ガスを間欠的に吹き込む方法では〈1〉窒素ガスの吹き込み時間が〇・一秒間ないし一秒間という極めて短時間であるから、吹き込まれる窒素ガスの量は僅かであり、しかも吹き込み停止中の袋内は空気が多量に混入した状態にあり、〈2〉フィルム繰出し時(その際、製品の投入、窒素ガスの充填も同時に行われている。)には、空気をシュートパイプの外周とフィルムとの間隙から袋内に引き込むとともに、シュートパイプの上方から製品と共に袋内に引き込むことになるので、九九%という高い窒素ガス充填率を実現することは不可能である旨主張する。

右掲記の甲第八、第一〇、第一一号証によれば、原告が平成五年一二月一七日に財団法人日本食品分析センターに提出した被告の商品「うすピー」の包装の種類を異にする二袋及び商品「小魚&ピーナッツ」一袋について、同センターがその袋内ガスをガスクロマトグラフ法により試験したところ、いずれについても窒素ガスが九九%であるという結果が得られたことが認められる。

しかしながら、乙第一一号証(被告会社従業員作成の報告書及びこれに添付された「おつまみ5 酸素濃度%」と題する五種類の商品についての残存酸素濃度を記録した表)によれば、被告が平成四年一二月から平成七年九月までの間に製造した三二回分の五種類の商品について、製造直後のもの(三袋)、製造してから一か月経過したもの(二袋)、同様にそれぞれ二か月、三か月、四か月、五か月、六か月経過したもの(各二袋)を無作為に抽出してその袋内の残存酸素濃度を計測した結果は、製造回毎、経過期間毎及び袋毎に、数値にかなりばらつきがあり、商品「うすピー」についていえば、製造直後のものでは最低一・三四%、最高五・九%で、大半が三%台又は四%台であり(約四割ずつで合計約八割)、一か月経過後のものでは最低〇・九九%、最高七・一%で、大半が一%台又は二%台であり(約四割ずつで合計約八割)、六か月経過後のものでは最低〇・二一%、最高八・二%で、大半(約三分の二)が一%台であること、このように期間の経過とともに残存酸素濃度が減少する傾向にあるのは、製造直後に袋内に残存していた酸素が内容物のピーナッツを酸化して消費されるためであることが認められるから、このように製造回毎、経過期間毎及び袋毎に袋内の残存酸素濃度の数値にかなりばらつきのある商品「うすピー」について、製造してからどれだけ期間が経過した商品であるか明らかでないものを、しかも「小魚&ピーナッツ」を加えても僅か三例だけ試験した結果を示す右甲第八、第一〇、第一一号証によっては、原告主張のように被告方法では九九%の窒素ガス充填率を実現しているという事実自体を認めることができない(なお、右製造直後の商品「うすピー」の袋内の残存酸素濃度の数値を、前記1の吉田ピーナツ株式会社において窒素ガスを連続して吹き込む方法を採用して包装した商品「柿の種ピーナッツ」四袋の残存酸素濃度の数値と対比すれば、被告方法は吉田ピーナツ株式会社が採用している方法とは異なる方法であると推認するのが相当ということができる。)。

のみならず、証拠(乙第一号証の1~3、第二号証の1~4、第三号証の1~3)によれば、被告が「ポップコーン 20g」、「オコノミ5 20g」、「コザカナミックス 10g」、「オツマミ5 20g」を包装するのに使用している装置のマイコンデータ表、「TWX1N DATA」表、タイミング表には一サイクルにおける窒素ガス充填の開始時間と充填時間(ドウサジカン)が記載されていて、いずれも間欠的に窒素ガスが吹き込まれるように設定されており、例えば「おつまみ5 20g」用の装置のマイコンデータ表(乙第三号証の1)、「TWX1N DATA」表(同号証の2)、タイミング表(同号証の3)には、一サイクルの開始から〇・五秒後に〇・四秒間窒素ガスを吹き込む旨示されていることが認められるところ、本件全証拠によるも、右のような窒素ガスの吹き込み方によっては、前記乙第一一号証記載の残存酸素濃度を示すような包装はできないとかあるいはいかに期間が経過した後の商品であってもおよそ甲第八、第一〇、第一一号証記載のような窒素含有率九九%という数値を示すことはありえないと認めるに足りないから、被告が窒素ガスを連続して吹き込む方法を採用しているということはできない。

原告は、被告方法が窒素ガスを間欠的に吹き込む方法であるならば装置に窒素ガスを間欠的に吹き込む装置が付設されているはずであるところ、検乙第二号証(平成七年八月九日撮影の被告使用の装置のビデオテープ)にはそのようなものは何ら示されていない旨主張するが、被告の主張に徴すれば、右検乙第二号証及び前掲検乙第一号証の10に示されているソレノイドバルブ(電磁弁)が原告のいう窒素ガスを間欠的に吹き込む装置であることが認められる。更に、原告は、検乙第二号証によれば袋を引き下げた時にフローメーターのフロートが下がっているところ、これは袋を引き下げた瞬間にはガスを吹き込む容積が瞬間的に大きくなるのでシュートパイプ及び袋内のガスの流圧が下がるためであり、横シールを施せばフロートが上がるのは容積が減じて流圧が上がるためであると考えられ、ノズルから吹き込まれる流量は常に一定であると主張するが、前示のとおり吉田ピーナツ株式会社が採用している窒素ガスを連続して吹き込む方法では、そのフローメーターのフロートは常に上がりっぱなしであったのであるから、窒素ガスを連続して吹き込む方法でもフロートが上下するかのようにいう右原告の主張は採用することができない。

3  また、前記検乙第二号証によれば、被告使用の装置においては、シユートパイプの外周が赤茶けた状態となっていることが認められるところ、これについて原告は、袋に詰められるおかきやピーナッツ等の有機物の微粉末がガス流と共にシュートパイプの外周とフィルムとの間隙内を上昇し、縦シールのヒート板によって押しつけられることにより焼き付くためであり、まさに右間隙内を窒素ガスが上昇している証左であると主張するが、被告の主張も勘案すれば、原告の右主張は単なる推測にすぎないといわざるをえず、これを認めるに足りる証拠はない。

4  以上によれば、結局、本件全証拠によるも、被告方法が原告主張の別紙第一説明書一、二記載の装置A又は装置Bを使用する同三記載の方法であると認めることはできない。これに反する原告の主張はいずれも採用することができない(したがって、被告方法は少なくとも本件発明の構成要件D及びEを充足しているとはいえず、本件発明の技術的範囲に属しないということになる。)。

二  してみれば、被告方法が右原告主張の方法であることを前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことが明らかであるから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

第一説明書

一 図面の簡単な説明

1 第1図は装置Aの要部断面正面図

第2図は装置Aの縦シール時のX1-X1線断面図

2 第3図は装置Bの要部断面正面図

第4図は装置Bの縦シール時のX1-X1線断面図

二 装置の符号の説明(装置A、Bに共通)

10'・・・フィルム

2'・・・ホッパー

2a'・・・計量された所定量の豆菓子製品を一時的に留め置くシャッター

4'・・・シュートパイプ

4a'・・・シュートパイプの上端開口部

4b'・・・同下端開口部

5'・・・縦シール部

6'・・・横シール部兼切断部

8'・・・窒素ガス充填パイプ

11'・・・フィルム案内部

14'・・・フイルム繰出しベルト

20'・・・豆菓子等の製品

60'・・・袋状部

三 方法の説明

両端が開口するシュートパイプ4'の一方から包装フィルム10'を右のシュートパイプ4'を囲繞するように筒状に巻きつけ、シュートパイプ4'の他方に送り出し、縦シール部5'において縦シールされ、かつ、シュートパイプ4'の他方に設けた横シール部6'において一定間隔で横シールすることにより袋状部60'を形成させるようにし、かつ、右のシュートパイプ4'の一方から窒素ガス充填パイプ8'により窒素ガスを連続して吹き込むことにより吹き込み側開口部4a'から窒素ガスを常にオーバーフローさせるとともに、シュートパイプ4'の他方からシュートパイプ4'の外周とフィルム10'との間隙43'を通して窒素ガスを排出させつつ、豆菓子等の製品20'を右のシュートパイプ4'の一方から右の横シール6'に対応して間欠的に供給して窒素ガスと共に製品を袋状部60'に充填させるようにした豆菓子等の窒素封入包装方法。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第二説明書

一 図面の簡単な説明

1 第1図は装置(一)の要部断面正面図

第2図は装置(一)のフイルム繰出し時のX1-X1線断面図

第3図は装置(一)の縦シール時のX1-X1線断面図

2 第4図は装置(二)の要部断面正面図

第5図は装置(二)の縦シール時のX2-X2線断面図

3 第6図は装置(三)の要部断面正面図

第7図は装置(三)の縦シール時のX3-X3線断面図

4 第8図は装置(四)の要部断面正面図

第9図は装置(四)の縦シール時のX4-X4線断面図

二 装置の符号の説明

1・・・フイルム原反から繰り出されるフイルム

2・・・計量された所定量の豆菓子製品を一時的に留め置くシャッター

3・・・製品の投入ホッパー部

3a・・・製品の投入路

4・・・シュートパイプ

5・・・縦シール部

5a・・・別タイプの縦シール部

6・・・繰出しベルト

7・・・横シール部

8a・・・窒素ガス供給ホース81に接続し、投入路3aに開口したガス噴射口

8b・・・窒素ガス供給ホース82に接続し、投入路3aに開口したガス噴射口

8c・・・窒素ガス供給ホース83に接続し、シュートパイプ4内を垂下するノズル85を介してパイプ4下端下に開口するガス噴射口

8d・・・窒素ガス供給ホース84に接続し、シュートパイプ4上端部内に開口するガス噴射口

8e・・・8a、8bの上方位置に開口したガス噴射口

20・・・袋状部

30・・・豆菓子製品

三 方法の説明

1 装置(一)における方法

〈1〉 シュートパイプ4の下方には、前サイクルの終端で縦シール動作により筒状フイルムの縦縁がシールされ、横シール動作によりフイルムの下端が封印された袋状部20が待機し、その状態で、シャッター2が開動して所定量の製品30が、投入ホッパー部3に形成された投入路3a及びシュートパイプ4を通して袋状部に投入される。

〈2〉 上記製品の投入開始後、各ガス噴射口8aないし8dから一定時間窒素ガスを吹き込むとともに、フイルム1が、繰出しベルト6によりシュートパイプ4に沿って下方に繰り出される。第1図は製品の投入動作中、かつフイルム繰出し途中の状態を示す。

フイルム繰出し動作が完了し、停止する袋状部20内に製品を投入し終わり、噴射口8aないし8dからのガス吹き込みが終了した後に、横シール部7が作動して袋状部20の上端縁を封印する。

〈3〉 縦シール部5は、前記フィルム1の繰出し時には離反しており(第2図)、フィルムが停止している状態において閉じ、縦シール動作をする(第3図)。

この縦シール動作は、前記横シール動作に相前後して行われる。

上記ガス噴射口8aないし8dからのガス吹き込みは、遅くとも横シール動作前には完了している。すなわち、ガス吹き込みは間欠動作をする。

2 装置(二)ないし(四)における方法

装置(二)ないし(四)は、装置(一)と基本的構成を同じくし、部分的に変更しているものであるが、同一の部材は同一の符号をもって図示してある。

装置(二)は、シュートパイプ4内に延びるノズル85のガス噴射口8cにより、シュートパイプ4下端部に窒素ガスを吹き込み(装置(一)のガス噴射口8dを具備しない。)、また縦シール部5aは、シュートパイプ方向へ可動する押当て方式である。なお、装置(二)は、噴射口8a、8bの他に噴射口8eを具備している。

装置(三)は、装置(一)のノズル85に代えてガス噴射口8dを対向する二か所に配設したものである。

装置(四)は、装置(一)のノズル85に代えてガス噴射口8dを対向する二か所に配設するとともに、縦シール部5aを装置(二)と同様にしたものである。

装置(二)ないし(四)により実施される窒素封入包装方法は、いずれも前記装置(一)における方法と同一である。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

第7図

〈省略〉

第8図

〈省略〉

第9図

〈省略〉

本件特許公報

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B2) 昭60-35094

〈51〉Int.Cl.4A 23 G 3/02 B 65 B 31/04 識別記号 庁内整理番号 7732-4B 7123-3E 〈24〉〈44〉公告 昭和60年(1985)8月13日

発明の数1

〈54〉発明の名称 豆菓子等の窒素封入包装方法

〈21〉特願 昭56-163784 〈55〉公開 昭58-63351

〈22〉出願 昭56(1981)10月13日 〈43〉昭58(1983)4月15日

〈72〉発明者 竹村秀毅 大阪市天王寺区小橋町14-78-101号

〈71〉出願人 株式会社豆新本店 大阪市生野区新今里2丁目8番14号

〈74〉代理人 弁理士 小谷悦司 外1名

審査官 高木茂樹

〈76〉参考文献 特開 昭52-8397(JP、A) 特公 昭54-30354(JP、B2)

米国特許3009298(US、A)

〈57〉特許請求の範囲

1 両端が開口するシユートパイプの一方から包装フイルムを、上記シユートパイプを囲繞するように巻きつけ、縦シール部において縦シールしつゝシユートパイプの他方に送り出し、シユートパイプの他方に設けた横シール部において一定間隔で横シールすることにより袋状部を形成させるようにし、かつ上記シユートパイプの一方から窒素ガスを連続して吹き込むことにより、吹き込み側開口部から窒素ガスを常にオーバーフローさせると共にシユートパイプの他方からシユートパイプの外周とフイルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させつゝ、豆菓子等の製品を上記シユートパイプの一方から上記横シールに対応して間欠的に供給して窒素ガスと共に製品を袋状部中に充填させることを特徴とする豆菓子等の窒素封入包装方法。

発明の詳細な説明

この発明は、豆類、ナツツ類その他の豆菓子等からなる多数の粒状製品の窒素封入包装方法の改良に関するものである。

一般に豆菓子等の脂肪分を多く含んだ食品は、脂肪分の酸化による品質劣化を防止するために、包装フイルム中の空気を窒素ガスに置換する窒素封入包装方法が行なわれている。従来の窒素封入包装方法は、高置換率を得るために、ホツパー、計量部およびシユートパイプを一連の密閉構造とすると共に、これらの各部に窒素ガス充填装置および空気排出弁を設けており、構成が非常に複雑で製作費および維持費が高くつく。またホツパーが密閉構造となつているためにホツパー内に貯えられた製品がなくなれば密閉部を開放して製品を充填しなければならならず、その度に装置を停止し、かつ再度空気を排出しなければならないので長時間の連続運転ができないという欠点があつた。

この発明は以上の欠点を解決するためになされたものであり、簡単な構成で高置換率を得ることができ、かつ長時間の連続運転が可能な豆葉子等の窒素封入包装方法を提供するものである。

この発明は、両端が開口するシユートパイプの一方から包装フイルムを、上記シユートペイプを囲繞するように巻きつけ、縦シール部において縦シールしつゝシユートパイプの他方に送り出し、シユートパイプの他方に設けた横シール部において一定間隔で横シールすることにより袋状部を形成させるようにし、かつ上記シユートパイプの一方から窒素ガスを連続して吹き込むことにより、吹き込み側開口部から窒素ガスを常にオーバーフローさせると共に、しユートパイプの他方からシユートパイプの外周とフイルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させつゝ豆菓子等の製品を上記シユートパイプの一方から上記横シールに対応して間欠的に供給して窒素ガスと共に製品を袋状部中に充填させることを特徴とする豆菓子等の窒素封入包装方法である。

以下、この発明を実施例の図面によつて説明する。第1図において1はフイルム原反、2はホツパー、3は計量部、4はシユートパイプ、5はフイルムの縦方向のシールを行う縦シール部、6は横方向のシールを行う横シール部、7は包装後の袋を切断するスライドカツターである。上記フイルム原反1は、例えばセロハン、ポリエチレン、アルミニウム箔等をラミネート加工した包装フイルムにより構成されている。シユートパイプ4は第2図に示すように上下面端が開口され、かつジヨーゴ状に形成された上部41と、パイプ状に形成された筒部42とからなり、上部41の上端開口部には窒素ガス充填パイプ8が設けられ、筒部42の外周には第3図に示すような縦溝43が形成されている。

フイルム原反1から繰り出されたフイルム10は、テンシヨンローラ11およびダンサローラ12、テンシヨンローラ13を介して供給され、ガイド等で規制されることによつてシユートパイプ4を囲繞するように巻付けられて下方に送られる。そして、シユートパイプ4の中間部に設けられた縦シール部5においてフイルム10は縦方向のシールがなされて筒状に形成され、かつシユートパイプ4の下端部に設けられた横シール部6によつて一定間隔で横方向のシールがなされて袋状に形成される。

窒素ガス充填パイプ8からは窒素ガスが連続して吹き込まれ、この窒素ガスはシユートパイプ4の筒部42を通つてその下端へ送り出されると共に一部は上端開口部からオーバーフローする。筒部42の下端から送り出された窒素ガスは筒部外周の縦溝43によつて形成された間隙を通つて外部に排出される。すなわち、充填パイプ8からは窒素ガスを筒部42の下方へ流すと共にシユートパィプ4の上端開口部から常にオーバーフローするだけの量が供給される。この状態でホツパー2に貯えられた豆菓子等の製品20を計量部3において所定重量に計量し、前記横シールに対応して間欠的にシユートパイプ4の上部41に供給する。製品20は上端開口部から逆流する窒素ガス中を通り、その間に各製品20間に混在する空気が追い出された後、筒部42を窒素ガスと共に落下して袋状部60に充填される。この袋状部60は、窒素ガス充填パイプ8から供給される窒素ガスが充填された状態で横シール部6によつて問欠的に引き下げられ、その後横シール部6が元の位置に上昇し、これによつて上端部がシールされて包装袋61が形成される。この包装袋61はさらに下方に送られた後、スライドカツター8によつて切離される。

このようにシユートパイプ4の上端開口部から常に窒素ガスをオーバーフローさせることによつて、シユートパイプ4の上端を開放状態にしたままでシユートパイプ4および袋状部60内を外気と遮断させることができ、製品のみが充填され空気が混入するのを防止することができる。こ ため従来のようなホツパーからシユートパイプに至る一連の密閉構造および空気排出弁等は不要であり、しかも窒素ガス充填パイプ8は一箇所に設けるだけでよく、極めて簡単な構成で効果的に外気と遮断でき、残存酸素量を微少に抑えることができる。このように簡単な構成で高置換率が得られるので製作費および維持費が非常に安価になる。また製品20が貯えられるホツパー2を開放構造とすることができるので運転を継続しながらホツパー2内に製品20を供給することが可能であり、従来のように製品20をホツパー2内に供給する度に装置を停止する必要はなく、長時間の連続運転を行うことができるという利点もある。

第1図に示す装置において、シユートパイプ4の筒部42の内径を24mmとし、窒素ガス充填パイプ8の下端から橫シール部6までの距離Lを筒 42の内径の3倍程度に設定し、充填パイプ8から1分間に8lの窒素ガスを供給して包装袋61内に17ccの製品20と23ccの窒素ガスとを充填したものを1分間に30袋製造する実験を行つたところ、残存酸素量は1%以下であつた。

なお、上記実施例ではシユートパイプ4が上下方向に配置されているが、これを横方向または斜め方向に配置し、窒素ガスの吹き込み圧力で製品20を充填するようにしてもよい。、また、上記窒素封入包装装置を単列構成にしてもよく、また複数配列にして並列運転可能なように構成してもよい。またシユートパイプ筒部42の縦溝43は、筒部42の外周にフイルム10をぴつたりと添わせた状態で筒部42とフイルム10との間に間隙を形成するために設けられ、摩擦係数が減少してフイルム10の滑りがよくなるという利点を有するものであるが、この縦溝43の代りに突起を設けるか、またはフイルム10側に縦溝または突起を設けることによつて間隙を形成するようにしてもよい。

以上説明したようにこの発明は、シユートパイプの一端開口部から常にオバーフローする程度に窒素ガスを供給するようにしたものであり、極めて簡単な構成で高置換率を得ることができ、製作費および維持費が高価であり、かつ長時間の連続運転が可能であるという利点を有するものである。

図面の簡単な説明

第1図はこの発明を実施するための装置の概略図、第2図はシユートパイプの構造を示す断面図、第3図は第2図のⅢ-Ⅲ線断面図である。

4……シユートパイプ、5……縦シール部、6……横シール部、8……窒素ガス充填パイプ、10……フイルム、20……製品、42……筒部、43……縦溝、60……袋状部。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

策3図

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特許公報

〈省略〉

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